ループエンジニアリング 回すたびに、AIとの仕事が良くなっていく

リサーチ、執筆、デザイン、コード。かつて数日かかっていた仕事を、AIはいまや数分でこなします。それでも多くの人は、AIの出力が正しいことを願いながら使っているのが実情です。ループエンジニアリングは、その「願い」をプロセスに置き換える働き方です。AIは自分の仕事をループの中で確認し、改善する。判断は人が持つ。そしてルール、チェック、ワークフローからなるハーネスが、全体を一定の水準に保ちます。ここでは、その仕組みを実例とともに紹介します。題材は、私がリードし、現在アプリストアで公開されているモバイルアプリです。

実践レポート · 2026年10月 · Steven Smith

オレンジのヘルメットをかぶった登山者が、オレンジとネイビーのロープで、スマートフォンの画面でできたブロックの壁を降りていく。小さな黄色いヘルパーたちがブロックをはめ込んでいる。
課題

AIを使った仕事の多くは、「願い」頼みです。 指示を出し、何かが出てきて、それが正しいことを願う。

AIの出力の質は、それを確認する人の力量で決まります。コードが読めなければ、安全かどうかは判断できません。デザイナーでなければ、その画面が通用するかどうかは分かりません。分野の知識がなければ、そのリサーチが確かかどうかも分かりません。だから、願いながら出すか、出すのをやめるかのどちらかになってしまいます。

ループエンジニアリングで変わること

仕事が、自分で自分を確かめる。 AIが作業し、確認し、直し、うまくいかなかったことから学びます。

ループエンジニアリング はプロセスです。手順を一つずつ指示するのではなく、タスクをまるごとAIに任せます。AIはタスクに何が必要かを見極め、足りない情報を集め、作業し、チェックし、見つけた問題を直します。自分で判断できないときだけ人に確認します。判断は人が担い、繰り返されたミスはハーネスの改善につながります。それを可能にするのが ハーネス です。AIが作業の拠り所にするルール、ガードレール、ガイド、スキル、チェック、メモリのことで、その中身は「何が良いか」を知っている人の知見から作られています。この2つがそろえば、自分のスキルを超える仕事に取り組めるようになり、時間を判断に使えるようになります。

考え方

一直線ではなく、ループで進める

ループエンジニアリングは、AIが関わるあらゆる仕事に使えます。リサーチ、執筆、デザイン、分析、運用、ソフトウェア開発。形はどれも同じです。中心にあるのは目標と方向性で、これは人が持ちます。そこから複数のループが伸び、それぞれ違う速さで回って、また中心に戻ってきます。そして全体をハーネスが包んでいます。ソフトウェア以外で試すなら、 Harness Kit を使えば、いま仕事をしているフォルダやリポジトリ、ワークスペースにハーネスを組み込めます。

例 · プロダクト開発の場合

ハーネスの中に、中心と3つのループがある図。中心には要件と方向性があり、人が持つ。ステークホルダーとの定義と改善は数日単位で、方向性を評価して決める。AIによる構築とチェックは数分単位。レビューと承認は数時間単位で、AIが各変更をレビューし、人が承認する。どのループも中心から始まり、中心に戻る。ハーネスはすべてのループが従うルールとデザインガイドで、学んだことは新しいルールにできる。 ハーネス · すべてのループが従うルールとデザインガイド 学んだことは新しいルールになる 定義と改善 数日単位 ステークホルダー 評価して決める AIが作って確かめる 数分単位 AI 作って直す レビューと承認 数時間単位 人が承認する AIのレビューのあとで 要件 + 方向性 人:ニーズ、デザイン、次の一手 ハーネスの中に、中心と3つのループがある図。中心には要件と方向性があり、人が持つ。ステークホルダーとの定義と改善は数日単位で、方向性を評価して決める。AIによる構築とチェックは数分単位。レビューと承認は数時間単位で、AIが各変更をレビューし、人が承認する。どのループも中心から始まり、中心に戻る。ハーネスはすべてのループが従うルールとデザインガイドで、学んだことは新しいルールにできる。 ハーネス · すべてのループが従う 学んだことは新しいルールになる 要件 + 方向性 人:ニーズ、デザイン、次の一手 定義と改善 数日単位 ステークホルダー 評価して決める AIが作って確かめる 数分単位 AI 作って直す レビューと承認 数時間単位 人が承認する AIのレビューのあとで
  1. 定義と改善 数日単位

    AIは要件や仕様、デザインなど必要な情報を受け取り、クリックできるプロトタイプを作ります。人はそこで示された方向性を、デザインが1案のときも複数案のときも評価し、進む方向を決めます。その結果、デザインが変わることも、要件そのものが変わることも、新機能が加わることもあります。要件を更新し、固まるまでこれを繰り返します。

    人の役割: プロダクトを使う人たちとAIの橋渡し役です。このループに最も多くの時間を使うことになります。

  2. AIが作って確かめる 数分単位

    AIが要件をもとに作ります。要件とハーネスに照らして自分の仕事を確認し、問題を直し、また繰り返します。人が見張っている必要はありません。

    人の役割: 明確な要件と良いハーネスで土台を整え、次に何を作らせるかを決めること。

    小さなループ:自己改善。 構築ループの横で、ハーネスは経験から良くなっていきます。AIが自分で問題を見つけることもあれば、人が問題を指摘してAIにフィードバックすることもあります。どちらの場合も、ルール、スキル、チェック、ワークフローといった形でハーネスを改善でき、次の構築はより良い状態から始まります。

  3. レビューと承認 数時間単位

    これはAI支援のQA、つまり品質チェックです。AIは変更ごとに承認を依頼します。レビュー担当のAIがテストし、修正や改善が必要なら差し戻します。人はそのレビューに目を通してから承認し、承認された変更が反映されます。

    人の役割: AIのレビューに目を通して承認すること。そして、何度も起きる問題をハーネスの改善につなげること。

3つのループはすべてハーネスに包まれていて、どこかのループで学んだことは、すべてのループに効くルールになります。私のプロジェクトでは、構築とレビューは速く進みました。時間がかかったのはステークホルダーとの定義と改善で、重要な判断はそこで下されていました。

Andrew Ng「Three Key Loops for Building Great Software」をもとに構成。所要時間は私のプロジェクトの実績です。

実例

実際のアプリでどう進めたか

例として取り上げるのは、私が大規模な組織向けにリードしたモバイルアプリです。何をなぜ作るかを決め、AIの作業を方向づけ、次はもっと良くなるようにフィードバックしました。変更の大半は私が出していて、エンジニア1件に対して私がおよそ2.5件という割合です。私の変更はAIレビューを通ってからエンジニアが承認し、エンジニアの変更は同じやり方で私がレビューしました。バックエンドは別チームの担当で、アプリはそこに接続していました。AIが作業の拠り所にするすべて、つまりハーネスが、そのすべてを支えていました。下の4つのステップは、上のループを順に追ったものです。ステップ2が定義と改善、ステップ3が構築、ステップ4がレビューと承認にあたります。

  • 私:方向づけとレビュー
  • ステークホルダーとユーザー:各バージョンを試す
  • エンジニア:変更のレビューと技術ルールの管理
  • AI:構築を担当
図の中、または下のステップを選ぶと、何が起きたかを確認できます。
プロジェクトの進め方:誰が作業するか 3つのレベル(人が判断・実行、人がAIと一緒に、AIが自律的に)にまたがる4つのステップ。ステップ1では、私がAIと一緒に要件を整理し、ステークホルダーと私で優先順位を付ける。ステップ2の定義と改善では、私がAIに指示し、AIがデザインと開発を一体で進めてクリックできるプロトタイプを自律的に作り、自分の作業をチェックする。それをステークホルダーと私が評価して決める。完了するまで変更・改善を繰り返す。ステップ3では、私がAIに指示し、AIが完成したプロトタイプを本番のスマホアプリへ移行し、構築しながら自分の作業をチェックする。ステップ4のレビューと承認では、AIが変更ごとに承認を依頼する。別のAIとレビュアーが一緒に品質チェックを行う。レビュアーは承認するか修正を依頼し、修正依頼はAIに戻って修正・再提出される。承認されると、AIまたは私がmainにマージする。 人 判断・実行 人 + AI AIと一緒に AI 自律的に 1 · 要件を整理 2 · 定義と改善 3 · 本番アプリを作る 4 · レビューと承認 種類を問わず、すべての変更 要件を整理私(AIと一緒に)優先順位付け私 + ステークホルダー AIに指示私(AIと一緒に)プロトタイプ作成デザイン + 開発評価して決定私 + ステークホルダー AIに指示私(AIと一緒に)スマホアプリへ移行 承認を依頼依頼があれば修正AI支援のQAAI + レビュアー承認または修正依頼mainにマージAIか私 プロトタイプ 変更・ 改善 自己チェックして修正 完了 自己チェックして修正 修正を依頼 承認 プロジェクトの進め方:ステップごとの作業分担 1 · 要件を整理 要件を整理する私(AIと一緒に)優先順位付け私 + ステークホルダー 2 · 定義と改善 AIに指示私(AIと一緒に)プロトタイプ作成デザイン + 開発評価して決定私 + ステークホルダー 自己チェック プロトタイプ 変更・改善 完了 3 · 本番アプリを作る AIに指示私(AIと一緒に)スマホアプリへ移行 自己チェック 4 · レビューと承認種類を問わず、すべての変更 承認を依頼依頼があれば修正AI支援のQAAI + レビュアー承認または修正依頼 修正を依頼 承認 mainにマージAIか私

横にスワイプすると、4つのステップをすべて見られます →

ハーネス

ハーネスとの付き合い方

私の仕事は、AIが必要なコンテキストを持っている状態をつくり、そのうえでAIの作業を方向づけることでした。細部まで自分ですべて確認することはできません。だから「何が良いか」を書き出し、AIがそれに照らして自分で確認できるようにしました。問題が起きたときは、画面だけでなくハーネスも直しました。

AIに必要なコンテキストを渡す

AIが良い仕事をできるのは、適切なコンテキストがあるときだけです。私の仕事は、AIがそのコンテキストを持ち、作業を始める前にタスクを理解している状態をつくることでした。

  • ハーネスにすでにあるもの: ルール、ガードレール、ガイド、スキル、ワークフロー、チェック、デザインシステム、メモリに加え、ハーネスがうまく機能するために必要なその他のもの。このリストは進化し続けています。
  • 全体像: 目標、要件、プロダクト。
  • タスクそのもの: 何をするか、そして「完了」がどういう状態か。

ハーネスは単一のものではありません。ルール、ガードレール、ガイド、スキル、ワークフロー、チェックなどが増え続けるコレクションです。エンジニアと私の二人で管理し、私はデザイン以外でも改善点に気づくことがよくありました。

あとは、AIが完了まで作業する

コンテキストとタスク、そして明確な完了の定義があれば、AIは作業し、チェックし、問題を直し、完了まで進み続けます。それでも細部、特に最終的な画面は自分でも確認しました。

AIは2つの場所からコンテキストを得る。ハーネス(ルール、ガードレール、ガイド、スキル、チェック、デザインシステム、メモリ)と、私(目標、要件、プロダクト、タスク、完了の定義)。それをもとに、AIはループで作業する。作業し、チェックし、修正し、完了まで繰り返す。 ハーネス ルール · ガードレール · ガイド スキル · チェック · メモリデザインシステム 私から 目標 · 要件 · プロダクト タスク · 完了の定義 AI 作業し、チェックし、 修正を繰り返す 完了まで 完了 合意どおり AIは2つの場所からコンテキストを得る。ハーネス(ルール、ガードレール、ガイド、スキル、チェック、デザインシステム、メモリ)と、私(目標、要件、プロダクト、タスク、完了の定義)。それをもとに、AIはループで作業する。作業し、チェックし、修正し、完了まで繰り返す。 ハーネス ルール · ガードレール ガイド · スキルチェック · メモリ デザインシステム 私から 目標 · 要件 プロダクト · タスク 完了の定義 AI 作業し、チェックし、 修正を繰り返す 完了まで 完了 合意どおり

ハーネスはどう改善されていったか

これが自己改善のループです。問題は2つの経路で見つかりました。

  • AIが覚えているAIには、タスクをまたいで引き継がれるメモリがありました。そのため、ハーネスに関係する問題や、何度も起きていることに気づき、ハーネスの改善方法を提案してくれました。
  • 私が気づく特に、AIが同じミスを繰り返したとき。フィードバックを返し、一緒に原因を突き止めてから、ハーネスを改善しました。

どちらの場合も、ハーネスが改善されます。新しい、またはより良いルール、スキル、チェック、ワークフローが加わるのです。ほかの変更と同じように承認を経るので、次のタスクはより良い状態から始まります。

ハーネスが改善される2つの経路。AIが過去の作業を覚えていて改善を提案するか、私が繰り返されるミスに気づいてフィードバックする。どちらの場合も、ルール、スキル、チェック、ワークフローなどの形で一緒にハーネスを改善し、次のタスクがより良い状態から始まる。 AIが覚えている 改善を提案 私が繰り返しに気づき フィードバック ハーネスを改善 ルール、スキル、チェックなど ほかの変更と同様に承認され、 次のタスクがより良く始まる ハーネスが改善される2つの経路。AIが過去の作業を覚えていて改善を提案するか、私が繰り返されるミスに気づいてフィードバックする。どちらの場合も、ルール、スキル、チェック、ワークフローなどの形で一緒にハーネスを改善し、次のタスクがより良い状態から始まる。 AI 過去を覚えていて 改善を提案 私が繰り返しに気づき フィードバックを 返す ハーネスを改善 ルール、スキル、チェックなど ほかの変更と同様に承認され、 次のタスクがより良く始まる
  1. 書き出す

    良いデザインとは何かを、AIが従える平易な言葉で書きます。自分の頭の中にあるだけでは、AIは使えません。

  2. 実際の画面を見る

    自動チェックでは、画面が「しっくりくるかどうか」は分かりません。そこは私の役割として残しました。

  3. 繰り返す問題をルールにする

    同じことを2回直したら、それはルールにします。AIが従えるよう、ハーネスは短く保つようにしています。

チェックはすべて通過。でも、そのうち2つは何も検証していなかった

これは、私がオープンソースで公開しているハーネスの1つ、 Harness Kitでの話です。テストがすべて緑なら大丈夫だと思っていましたが、もっと乱暴な方法を試してみました。チェックを1つずつ削除して、そのたびにテストを実行したのです。すると、2つのチェックは削除してもテストがすべて通りました。そのうち1つは、ファイル名を使ってハーネスが信頼する記録を偽造されるのを防ぐ、唯一の仕組みでした。

2回の入念なレビューでも、どちらも見落とされていました。削除を1回試しただけで、数分で見つかったのです。今ではルールにしています。チェックを追加したら、それを削除してテストが失敗することを確認する。実際の画面を見るのと同じ教訓です。失敗したときに検知できて初めて、合格に意味が生まれます。

2回のテスト実行の比較。チェックがあるときは、すべてのテストが通る。チェックを削除しても、すべてのテストが通る。つまり、そのチェックは何にも検証されていなかった。 チェックあり チェック削除 チェックA チェックB チェックC チェックD チェックA チェックB · 削除 チェックC チェックD テスト:すべて合格 テスト:それでもすべて合格
結果は同じく緑。チェックを削除してみて初めて、それが何にも検証されていなかったと分かりました。
できること

持っていないスキルを、仕組みで補う

ハーネスは、身近にいないかもしれない専門家の判断力も与えてくれます。執筆ならスタイルガイドとファクトチェック、リサーチなら情報源についてのルール。プロダクトなら、データベースを安全に変更する方法や、ログインを安全にする方法を自分で知らなくても構いません。ハーネスが知っていて、AIはそれに従います。プロダクトの各レイヤーで見ると、次のようになります。

  • UX…本当に必要なものが作られていること。要件と決定事項が1か所にまとまり、「完了」の条件が確認できる形で書かれ、プロトタイプは実際の人に試してもらえます。
  • UI…画面に一貫性があり、ブランドに沿っていること。デザインガイドとデザイントークンが、色、文字、余白を決めます。外れたものはチェックで検出され、実際の画面は人が確認します。
  • フロントエンド…コードが健全で、次の変更で壊れないこと。変更のたびに、コーディングルール、Lint、テストが実行されます。コードを読まなくても、基準を満たしているかが分かります。
  • バックエンド…データの変更で何も失われないこと。データと、アプリが前提とするAPI仕様のルールを、必要になる前に書いておきます。変更を元に戻せないデータベースもあるため、復旧の方法は事前に計画しておきます。
  • セキュリティ…機密情報が漏れていないこと。保護されたファイルはAIが承認なしに変更できず、コードに秘密情報を置かず、ログインや個人データのチェックをリリース前に行います。承認するのは、名前のある担当者です。
  • ワークフロー…誰かがきちんとレビューしたこと。すべての変更が、作る、確認する、レビューする、承認するという同じ道筋をたどります。ミスは新しいルールになり、プロセスそのものが改善されていきます。

上のアプリでも、私はこのやり方で進めました。私はフロントエンド開発を本業にしているわけではありません。それでもUX、UI、フロントエンドを本番品質まで仕上げられたのは、私が方向を示し、良し悪しを判断できる基準に、ハーネスがAIを従わせてくれたからです。コードを一行ずつ自分で書く必要はありませんでした。バックエンドは別チームの担当でした。私がオープンソースで公開している Universal Harness は、ここに挙げたすべてのレイヤーを、Web、モバイル、バックエンドのスタックを問わずカバーできるように作っています。各ゲートには、違反をわざと起こして、確実に検出されることを確かめるセルフテストが付いています。

私の役割

私がしたこと、AIがしたこと

私は自分の役割を、決まった職種として捉えていません。プロジェクトに必要なことに合わせて変わります。今回は要件定義、デザイン、そしてAIへの指示でした。普通なら複数の専門職で分担する仕事です。

AIエージェントと働くとき、職種はそれほど重要ではなくなります。大事なのは線引きを理解することです。どの作業を人が判断して行い、どの作業を人がAIと一緒に行い、どの作業をAIが自律的に行うのか。そのうえで、いつ、なぜ人が介入すべきかを決めます。

たとえば、ある画面デザインを作る必要があるとします。AIに指示するのは、必ずしもUIデザイナーでなくて構いません。最初のステップはほかの人でもできます。ただ、完成した画面はUIデザイナーに確認してほしいかもしれません。別のプロジェクトなら、自動チェックで十分な場合もあるでしょう。プロジェクトと、そこで何が必要かによって変わります。

このプロジェクトで私がしたこと

  • ステークホルダーと、何をなぜ作るかを決めた
  • AIと一緒に要件を整理し、ステークホルダーと優先順位を付けた
  • AIと一緒にデザインガイドラインとデザインシステムを作った
  • AIに、次に何をどう作るかを指示した
  • AIと一緒にプルリクエストの大半を作成し、レビュアーの指摘を修正した
  • 実際の画面を確認し、エンジニアの変更をAIとともにレビューした
  • どの問題をハーネスの改善につなげるかを決めた

私がしなかったこと:AIが担当

  • プロトタイプを作る
  • 本番のスマホアプリへ移行する
  • 完了まで自分の作業をレビューし、修正する
  • 学んだことをメモリに保存する
  • 自分のミスとメモリから、ハーネスの改善を提案する

人が担い続けたこと

  • 何を、なぜ作るか私(ステークホルダーとともに)
  • どの要件を優先するか私(ステークホルダーとともに)
  • 良いデザインとは何か(AI向けに書き出す)私
  • 実際の画面を確認する 必ず担当者を決める私(ステークホルダーとともに)
  • AIに変更のレビューと作業の修正を指示するエンジニアと私(どちらもAIと一緒に)
  • どの問題をハーネスの改善につなげるか私とエンジニア

実際の画面の確認のように、必ず担当者の名前を明示しておくべきものがあります。誰も確認しなければ、すべてのチェックに合格した仕事でもおかしな見た目のまま世に出てしまい、それを知らせてくれるものは何もありません。

すべての担当業務を見る(一般的な職種別の分担と比較)

「AIが知らないことを人が知っている限り、人は関わり続ける必要がある」Andrew Ng「Three Key Loops for Building Great Software」より要約

仕事の変化

私の仕事はどう変わったか

私は自分の時間を、2種類の仕事に分けました。一つは作る作業(画面づくりを含む)。もう一つは戦略・探索・改善で、要件を詰めること、デザインを探ること、ステークホルダーやユーザーとアイデアを検証することです。

2枚のパネル。左:登山者が大量のレンガを背負い、坂を苦しそうに登っている。右:黄色いヘルパーたちがレンガを運び、登山者は地図を読みながら背筋を伸ばして、頂上の旗へ向かって歩いている。

「AIのおかげで、より価値のある仕事に時間を使える」と言うのは簡単です。このプロジェクトでは、それが具体的な形で起きました。時間配分が逆転し、仕事の中身そのものが変わったのです。

仕事はこう変わりました。

固まったように見えて、固まっていなかった要件。 要件の多くは、実は未確定だったり、優先順位がなかったり、まだ変わり続けていたりしました。それを早い段階で見つける時間がありました。

1つの課題に、複数のデザイン。 ドキュメント上で1案を議論するのではなく、動くプロトタイプとして作りました。

ステークホルダーやユーザーとのテスト。 作るものそのものが変わるほど、何度も繰り返しました。

方向転換も吸収できた。 途中でアプリの核となる部分が変わりました。それでも影響は約2週間で済みました。作る作業に時間がかからなくなっていたからです。

一般的なプロジェクトで同じ結果を出そうとすれば、作る作業にも同じか、それ以上の時間をかけることになります。多くの場合、チームはその代わりに、この価値の高い仕事のほうを削ってしまいます。

新たなボトルネックも見えてきました。人が関わるステップです。AIが数分で作れるなら、フィードバックや承認を何日も待つことの重みはずっと大きくなります。

速さは、変化のほんの一部にすぎません。1人でカバーできる範囲が広がり、プロダクトを使う価値のあるものにするための判断に、より多くの時間を使えるようになりました。

データ

数字が示すこと

これらは、ループエンジニアリングで開発した実際の本番アプリで計測した結果です。1つは60画面を超える先行のモバイルアプリ、もう1つは私がリードしたアプリで、どちらも公開中です。プロダクト名は伏せています。

品質を落とさずに、速く

先行アプリ · AIなしの半年とAIありの半年

0

期間全体を通じて、AIによる捏造コード(実在しないものをそれらしく書いたコード)はゼロでした。AIが書くコードで、特に心配されることの多い失敗の1つです。

93%

AIが自発的に作成したテスト改善のうち、採用された割合。1か月で82件を作成しました。

80.4/100

コード品質の総合スコア。2つの期間を同じ方法で計測しています。

→ 0

型エラー(バグの芽)がゼロに。重複コードも9.4%から8.1%に減りました。

追いつかなかった部分もあります。 不要コードの整理は、新しい作業のペースに追いつきませんでした。成果を示したのと同じスコアが、この弱点も示しています。

1人がリードし、構築はAIが担う

私がリードしたアプリ · 最初の3週間

65%

私の変更のうち、AIレビューで少なくとも1回は差し戻されたものの割合(40件中26件)。レビューがきちんと機能していた証拠です。

1.7

変更1件あたりの平均レビュー回数。指摘、修正、再レビューを、通るまで繰り返しました。

25 → 2

25件の変更に付いたレビューコメントを振り返り、繰り返し起きていた問題を2つ見つけました。どちらも新しいルールになりました。

+1

2回目の振り返りでは、コードレビューでは拾えない実機での確認項目が加わりました。キーボードを開いたときのフォームの挙動です。

エンジニアの時間の使い道。 エンジニアの仕事は、目に見えにくい場所に移りました。ハーネスのメンテナンス、ルールの文書化、そして私が速く安全に進めるための自動化づくりです。新しいルールで同じ問題が実際に減るかどうかは、まだ計測中です。

ハーネスがある場合とない場合

私の経験から

ここに計測した比較はありません。同じアプリをハーネスなしで作った人はいないからです。ただ、仕事の進み方の違いははっきりしています。ハーネスがなければ、AIへの指示がもっと必要になり、手順も抜けやすく、構築にかかる時間もここまでは減らなかったと思います。

ハーネスがない場合とある場合の仕事の進み方の違い(私の経験から)
項目ハーネスなしハーネスあり
「自分の作業をレビューして」などの手順毎回、自分で覚えて指示する組み込まれていて、自動で実行される
手順の抜け漏れ抜けやすい一度書いておけば済む
品質AIに指示する人次第誰でも同じルールとチェック
学び一人の頭の中に留まるハーネスに蓄積され、次に活かせる
私の時間一つひとつの手順の指示に使う判断、レビュー、フィードバックに使う

ほかのプロジェクトが得られること

ハーネスは、毎回ゼロから作る必要はありません。コアになるハーネスから始め、各プロジェクトに自分たち用のコピー(フォーク)を持たせて、その仕事に合わせて育てていきます。あるプロジェクトで見つかった改善はコアに戻せるので、ほかのプロジェクトにも届きます。

  1. 1

    新しいプロジェクトがゼロから始まらない

    ルール、スキル、チェック、デザインガイダンスが初日からそろっています。私がオープンソースで公開している Universal Harness は、その出発点になるように作っています。

  2. 2

    一度直せば、どこでも直る

    コアのハーネスでミスを一度直せば、それをもとにしたすべてのプロジェクトに修正が届きます。

  3. 3

    品質が一人のAIスキルに左右されにくい

    AIに慣れていない人でも同じルールとチェックで作業するので、手順が抜けにくく、品質の基準もそろいます。

  4. 4

    改善がチームをまたいで積み上がる

    どのプロジェクトで生まれた修正や追加もコアに戻せるので、直接は関係のないプロジェクトの改善が、自分たちの使うハーネスを良くすることもあります。

次に強化したいこと

私のプロジェクトでは、ほとんどの場面でハーネスはニーズに合っていました。柔軟なので、プロジェクトに応じて追加、改善、拡張もできます。ベースのハーネスにもプロダクトやデザインのコンテキストは一部含まれていましたが、主に開発などの技術的な領域に重点を置いたものでした。そこで作業を進めながら、プロジェクト固有のプロダクトのコンテキストと、デザインやブランドのコンテキストを追加していきました。これらはハーネスの中核になる要素だと感じています。たとえば、ハーネスの初期セットアップの段階でこうした情報を集めたり、あれば提供を依頼したりできるとよいかもしれません。

規模の大きいプロジェクトや、リサーチやプロダクト企画なども含む幅広いプロジェクトなら、その範囲をカバーするスキルやガイドを増やすことになるでしょう。ただ、すべてのハーネスがあらゆる種類の仕事をカバーする必要はありません。プロジェクトに必要なものを加えていけばよいのです。

これらの学びは、主に1つのプロジェクトから得たものです。本当の検証は、次にハーネスを使うプロジェクトです。測る価値があるのは2つ、立ち上がりの速さと、レビューのやり取りの回数が時間とともに減っていくかどうかです。

Tips

気をつけたいこと

多くはAIを使うあらゆる仕事に当てはまりますが、企業向けに本番アプリを作る場合は特に重要です。

山道の休憩所。登山者がひざをつき、オレンジとネイビーのロープの結び目を虫眼鏡で確かめている。黄色いヘルパーが木箱に鍵をかけている。その後ろでは、疲れたヘルパーが重いリュックを下ろし、別のヘルパーがテントのそばで元気なヘルパーにメモを渡している。道しるべには目と南京錠のマークがある。
  1. 1

    出力を鵜呑みにしない

    ハーネスがどれだけ良くても、AIは間違えることがあります。結果に影響する要素はほかにもたくさんあります。自分で確認できるものは確認し、自分の専門外の仕事は、適切な人やチェックが見るようにしましょう。

  2. 2

    認証情報や機密データに触れさせない

    キー、パスワード、アクセストークンをAIが読んだり使ったり、チャットに貼り付けたりできないように設定しましょう。個人情報やその他の機密情報も同様です。対策をしていても、絶対に大丈夫だとは思わないこと。常に注意を払いましょう。

  3. 3

    「完了」の定義を書き残す

    AIは、完了がどういう状態かを分かっているときに一番力を発揮します。毎回プロンプトに書く必要はありません。Issue、PRD、仕様書に書かれているかを確認するか、AIに追記を頼みましょう。

  4. 4

    大きな作業では計画を出してもらう

    機能追加や大きめの変更では、構築を始める前にAIに計画を示してもらい、不明点を質問させましょう。小さな修正なら、そこまでは不要なこともあります。

  5. 5

    コンテキストを管理する

    セッションが長くなるほど、1ステップあたりのコストが増え、AIの仕事の質も落ちていきます。把握しておかなければならない情報がどんどん増えるからです。

  6. 6

    1セッション1タスク

    1つの機能や1ページのデザインなど、1つのセッションでは1つのタスクだけを扱うようにしています。プルリクエスト(PR)の管理も楽になります。10件以上開いていると、どのセッションがどのPRを担当しているかを覚えておくのはとても大変です。1セッション1PRと考えるとシンプルですが、厳密なルールではありません。小さなPRを1セッションで2つ扱うのは問題ありません。

  7. 7

    マージは慎重に

    マージは、AIがミスをして作業を失ったり巻き戻したりしやすいポイントです。ほかにも進行中の作業があるかもしれないこと、前回のマージ以降にmainブランチが進んでいるかもしれないことを、AIに理解させておきましょう。ハーネスのガードレールも役立ちますが、100%の保証ではないので、結果を確認しましょう。

  8. 8

    だらだら続けず、引き継ぐ

    セッションが長くなってきたら、終わったこと、次にやること、注意点をまとめた短い引き継ぎメモをAIに書いてもらいましょう。そして、そのメモから新しいセッションを始めます。

  9. 9

    作業管理にはGitHub Issuesを使う

    Issueは、タスク管理、特にバグ修正やデザイン改善の管理に最適です。AIにレビュー、整理、優先順位付けを手伝ってもらえますし、各プルリクエストを対応するIssueに簡単に紐づけられます。

問い

自分のプロジェクトに当てはめる

  1. どこに線を引くか?

    どの作業を人が行い、どの作業を人がAIと一緒に行い、どの作業をAIに任せられますか? いつ、なぜ人が介入する必要がありますか?

  2. 担当者の名前がない判断はどれか?

    変更が承認される前に、実際の画面を見るのは誰ですか? 何を新しいルールにするかを決めるのは誰ですか?

  3. AIは必要なコンテキストを持っているか?

    目標、要件、タスク、そして「完了」がどういう状態か。いま、何が足りていませんか?

  4. いちばん遅いのは、作ることか、決めることか?

    作るのに数分、決めるのに1週間かかるなら、速くすべきなのは作る作業ではありません。

  5. 何も書き出されていないレイヤーはどれか?

    ルールが画面にはあっても、データやセキュリティにないなら、AIはそこで推測に頼ります。うまくいかなかったときに、いちばん痛手の大きいレイヤーから始めましょう。

  6. 何度も同じ指摘をしていることは?

    それはハーネスを改善するチャンスです。ルール、スキル、チェック、ワークフローを加えれば、次からは言われなくてもAIが正しくこなせます。

あとで読む

詳細

さらに詳しく知りたい方のための補足です。

このサイクルは新しいものではない:チームが以前からしてきたこと
サイクルチームが以前からしてきたことAIで変わること
作る少し作り、確認し、繰り返すAIが数分でこなす。人はそこから手を離す。
確認同僚どうしでレビューする最初の確認はAIが行う。判断が必要な部分は人が持つ。
ユーザーから学ぶユーザーに試してもらい、改善するやることは同じ。ただ、いまはここがいちばん時間のかかる部分になる。
働き方を改善する一緒に振り返り、変えることを決める変えることは、AIが従えるように書き出す必要がある。

これらのサイクルは、ほかでも詳しく解説されています。Andrew Ngは、それぞれにかかる時間(数分、数時間、数週間)で分類しています。このページでは、仕事を方向づける人の視点、つまりAIが作っている間に人が何をするかという視点から見ています。

構築の内側:AIが止まって確認するところ

構築のループの中では、AIが推測で進めずに止まって確認すべき場所を、良いハーネスがあらかじめ決めています。計画を1つ入れると、出てくるのは承認待ちの変更か、AIが止まった具体的な理由のどちらかです。早めに止まるのは遅く感じますが、直すのにいちばんコストがかからないタイミングです。

ハーネスの中の構築ループ。人が計画とデザインガイドを書く。AIは計画を確認し、安全性をチェックし、画面をデザインし、作り、自分の仕事を確認して、承認を依頼する。計画に抜けがあったりデザインガイドと矛盾したりすれば止まって確認し、チェックに失敗すれば止まる。人は実際の画面を見て承認する。その後、チームで振り返り、ハーネスに新しいルールを加える。 計画とデザインガイド · 人 計画を確認抜けはないか? 安全性チェックログイン、個人データ 画面をデザインガイドに沿って 構築コードを書く 確認自動チェック 承認を依頼 抜け → 止まって確認 ハーネスと矛盾 → 確認 チェック失敗 → 停止 画面を見て承認 振り返り · 新ルール
  • AIがすべてやってくれる計画とデザインガイドを書くのは人です。それが空なら、AIは止まります。
  • もう人がレビューする必要はないレビューは今も人が行います。ただ、見るのは完成した変更の1か所に絞られます。
  • チェックが全部通れば問題ない画面が人に見せられる出来かどうかを確かめる自動チェックはありません。
  • 止まるのは何かが壊れたから止まるのは意図的です。推測で進めるほうが高くつきます。